ステロイドホルモン代謝酵素活性発現を利用した生殖機能の制御

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63480089
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 高橋 迪雄 東京大学, 農学部, 教授 (30011943)
• 研究分担者: 能田 健 東京大学, 農学部, 助手 (60218287) ; 塩田 邦郎 東京大学, 農学部, 助教授 (80196352)
• キーワード: 妊娠 / 黄体 / プロゲステロン / 20α-水酸化ステロイド脱水素酵素 / プロラクチン / ステロイドホルモン代謝酵素 / 卵巣 / 20αーダイハイドロプロゲステロン

研究概要

20α-水酸化ステロイド脱水素酵素(20α-HSD)は、多くのステロイドホルモン合成系の上流にあるプロゲステロン(P)を、生理学的に不活性な20α-ダイハイドロプロゲステロン(20α-OHP)に代謝する酵素であり、ステロイドホルモン産生細胞や、リンパ球に存在し、それぞれ、ステロイドホルモン産生の負の調節因子、又は、Pの免疫抑制効果を弱める因子としてステロイドホルモン代謝系で重要な役割を担う酵素である。特に、ラット黄体では、本酵素活性を上昇させることにより、P分泌期間を短縮し、約4日という短い排卵周期を実現する一方プロラクチン(PRL)が本酵素活性を抑制し、黄体のP分泌能を維持していることが知られている。本研究では、この20α-HSDの活性調節機構を、細胞・分子レベルで解明することを目的として、研究を遂行し、前年度までに卵巣20α-HSDの精製に成功し、分子量約3万の物理化学的性質の違う2種のアイソザイムが存在することを明らかにし、本酵素の特異抗体の作成に成功した。本年度は、さらに以下に示すような研究成果を得た。1)抗体を用いた免疫組織化学やウェスタンブロッテイングにより、卵巣内の本酵素の発現を精査した結果、本酵素の活性が低い機能黄体には本酵素量が少なく、活性の高い退行黄体では本酵素量が多いことが明かとなり、活性調節が酵素合成系に依存している可能性が示された。2)黄体細胞培養系を用いた実験により、PRLによる黄体の本酵素活性抑制機序には、黄体内マクロファ-ジの産生ずるTGF-βが細胞間情報伝達物質として機能しており、Mφの存在が、PRL作用発現に必要不可欠であることを示唆する結果を得た。3)ラット卵巣のcDNAライブラリ-を作成し、アフリカツメガエル卵を用いたタンパク質翻訳系で、20α-HSD活性を誘導するcDNAフラクションを得た。現在20α-HSD遺伝子の配列決定の作業が進行中である。

研究成果

• [文献書誌] Naito,K.and M.Takahashi: "The effect of peritoneal macrophages on monolayered luteal cell progestin secretion in the rat." Endocrinologia Japonica. 35. 439-446 (1988)
• [文献書誌] Saito,S.,S.Matsuyama,K.Shiota and M.Takahashi: "Involvement of splenocytes in the control of corpus luteum function in the rat." Endocrinologia Japonica. 35. 891-898 (1988)
• [文献書誌] Kadota,C.,M.Ohta, M.Takahashi: "Dynamic response to follicle-stimulating hormone of secretion of progesterone by supertused rat granulosa cells." Molecular and Cellular Endocrinology. 59. 213-220 (1988)
• [文献書誌] Matsuda,J.,K.Noda,K.Shiota,M.Takahashi: "Participation of ovarian 20α-hydroxysteroid dehydrogenase in luteotrophic and luteolytic processes during rat pseudopregnancy." Journal of Reproduction and Fertility. 88. (1990)
• [文献書誌] Kadota,C.,M.Ohta,M.Takahashi: "Effects of androgen on progesterone secretion from,granulosa cells obtained from antral tollicles of rats" Endocrinologia Japonica. 37. (1990)
• [文献書誌] Noda,K.,K.Shiota,M.Takahashi: "Purification and characterization of rat ovarian 20α-hydroxysteroid dehydrogenase." Biochemical Journal. (1990)
• [文献書誌] Takahashi,M.,F.kasuga,S.Saito,S.Matsuyama,K.Yamanouchi,T.Murata,K.Shiota.: "Developement of preimplantation Embryos and Their Environment.(Yoshinaga K,Mori T Eds.)" Alan R.Liss,Inc, pp101-115 (1989)