家兎眼毛様体突起のうち、いわゆる虹彩部は眼房水産生に最も強く関係した部位とされる。この部の微細構造を色々の電子顕微鏡的手法で、かつ種々の実験的条件下で観察している。本年度はとくに毛様体上皮に分布する上皮内神経線維が認められたので、その形態を詳細に観察した。すなわち毛様体突起支質には比較的豊富な神経線維束が認められるが、これから分かれた単一の線維は、上皮の基底部でシュワン細胞の被覆を失ない、裸線維として上皮内に侵入する。毛様体上皮は支質側の色素細胞層(PE)と、眼房側の無色素細胞層(NPE)の2層からなり、両者は支質側と眼房側とがそれぞれの基底側にあたり、基底膜によって裏打されている。一方、両層が相対する側が、それぞれの頂上面であり、その間は多数の細隙結合や接着斑などの結合装置で結ばれているが、部分的には細管状の間隙をつくり、微絨毛様突起がPEおよびNPE両者からこの中に伸びている。ciliary channelと呼ばれているのがこれである。支質から上皮に侵入した神経線維はPE細胞間を斜走し、ついで上皮の面にほぼ平行に波状走行を示す。走行中は上皮細胞からでた板状の突起で、時には幾重にも、包まれている。またその処々に球状膨大部をつくるので、全体として数珠状を呈する。細い部分には神経細管と細糸、および小管状滑面小胞体と小糸粒体が含まれ、膨大部にはこれらの他に多数の小胞が存在する。小胞には径約50nmの明小胞と、径約80nmの有芯小胞がある。これら膨大部はPEの核、糸粒体、ゴルジ装置などとも近接し、またciliary channelにも近く位置しているが、線維のNPEへの侵入は見られなかった。眼圧下降剤forskolin投与動物の毛様体上皮ではPE細胞間が開大し、神経線維は開いたその間隙に浮び、膨大部の小胞は減少していた。
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