1.装置の改良。本年度購入したシグナルアベレージャは、よい条件で稼動している。従来より時間描記の精度が高まり、較性の操作の一部が自動化されて、故障の可能性が低下したことが主要な利点である。 2.イセエビの歩脚神経を使用した実験成果。主要な目的は、旋光シグナルの方向が一定しない理由を探ることであった。次のような所見は、この不定性の解析に役立つものであった。旋光シグナルは、2つの成分に分離できることが認められた。これらを、それぞれ前シグナル、主シグナルと呼ぶことにする(1)前シグナルは、時間的にシグナルの初期に現れる。主要な特徴は、陽極刺激によりその方向を逆転させること、刺激部位を光測定部位から離すとき、この成分が消失すること、不応期を持たないこと、等である。これらの事実は、前シグナルが、刺激部位からの電気緊急性膜電位変化に依存していることを示す。しかし、一方大部分の例において刺激部位が光測定部位の右側にあるか左側にあるかに従ってその方向を逆転させることは、このシグナル成分が膜電位そのものではなく、膜電位の空間的勾配によって発生していることを示す。(2)主シグナルは、陽極刺激により方向をかえず、刺激部位を離しても消失せず、不応期を持つので、伝導性の活動電位に伴って発生していると考えられる。主シグナルも、大部分の例において、刺激部位と光測定部位を反対にすると、その方向を逆転させるので、その発生原因に、膜電位の空間的勾配が大きく関与していることがわかる。しかし、神経線維を光軸に対し傾けると、前シグナルにはほとんど変化が見られないのに対し、主シグナルはその大きさを変え、時に反転する。主シグナルのこの成分は、膜電位の勾配により生ずる変化とは異る成分であろう。 3.イカ巨大線維を使用した実験成果。シグナルの大きさは詳しい解析を行うに充分ではなく、色素の使用と、レーザによる実験を試みたい。
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