心筋細胞内のCa濃度の調節は、細胞の収縮やいろいろな細胞応答にとって最も基本的なものである。細胞内のCaイオン濃度は静止時に0.1μM程度であり、これは細胞外の濃度の10^4分の1である。これを維持するための細胞膜の機転として、Na/Ca交換機転が考えられている。我々はNa/Ca交換にともなって発生する膜電流を記録し、その逆転電位を測定することによって、NaイオンとCaイオンの交換比率を確定することを研究目的とした。Na/Ca交換電流は既に心筋細胞と眼桿体細胞外節で記録されている。その電流は細胞内外のNaとCaに依存し、LaやNiなどの重金属イオンによって抑制される。しかし、依然として最も基本的な逆転電位とイオン濃度の関係を調べる必要があった。実験にはモルモット心より単離した心室筋を用い、これにパッチクランプ法を適用した。細胞内にNaイオンを負荷した状態で、細胞外にCaを与える前後の電流の差をNa/Caイオン交換電流として記録しているが、一定のCaを細胞外に与え続けているにもかかわらず、測定される電流は時間と共に数十秒の過程で減衰し、一定の電流値に達する。この機序として、イオン交換機転によって運ばれたCaが細胞内に蓄積したか、あるいは細胞内のNaイオンの減少があったことが結論された。そこで、交換比率3Na:1Ca交換の平衡電位を計算によって求め、その電位を保持電位としたところ、ランプパルスで記録される電流ー電圧曲線の時間的な変化はほとんど認めることがなかった。Na/Ca交換電流をNi感受性の電流成分として記録したところ、逆転電位はNa濃度変化、Ca濃度変化の実験で理論値とよく一致することが証明された。我々の測定している電流が確かにNa/Ca交換に基づくものであることと、その交換比率は3Na/1Caであることを結論した。
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