研究概要 |
ラット視床下部腹内側核(VMH)より神経細胞を酵素と機械処理を併用して単離し、膜電位固定下、吸引電極法(Akaike,1980)にて細胞内を潅流し,グリシンで賦活されるClイオン電流成分を分離した。単一神経細胞ヘのグリシンの投与には外液瞬時交換法(Akaike,InoueとKrishtal,1986)を用いた。得られた結果は、1.グリシンで惹起される応答の平衡電位は、外液中のCl濃度の10倍の変化に対して約53mV移行した。このことはグリシン応答がClイオンを介することを示唆する。2.グリシンのCl応答の用量・反応曲線におけるHill係数は約2で、Kd値は9×10^<-5>Mであった。3.グリシン応答の電流・電圧曲線において、-50mVより過分極方向で大きな外向き整流作用がみられた。4.グリシンで惹起されるClイオン電流の活性化と不活性化相はそれぞれ速いものと遅い指数函数成分からなっていた。5.グリシン応答の不活性化相の遅い成分の時定数は脱分極で増大し、過分極で減少した。しかし、速い成分は全く電位依存性をもたなかった。6.α-アミノ酸(L-α-アラニン、D-α-アラニン、L-セリン)、グリシンメチルエステル、クリシンエチルエステル、β-アミノ酸(β-アラニン、タウリン)もグリシンと同様にClイオン電流を惹起した。7.α-とβ-アミノ酸群によって惹起された応答はストリキニーネにより選択的に拮抗されたが、ビククリンやピクロトキシン、それにタウリンの拮抗薬といわれるTAGによって影響されなかった。このことはα-とβ-アミノ酸群がグリシンと同じ受容器に作用することを示唆する。8.グリシン受容との交叉脱感作はβ-アミノ酸の方がα-アミノ酸よりも強かった。なお現在、興奮性アミノ酸の一種、NMDAの受容器におけるNMDAとグリシンとの相互作用についても研究中。
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