室・壁温25〜30℃、湿度40%の人工気候室において、ピ-ク波長1.3μm、3.5μm、及び波長域3〜25μmの赤外線ヒ-タ-各数個をパネルに組み込んだ熱源(近赤外線NIR、中間赤外線MIR:遠赤外線FIR)を用い、被検者の腹背両面、一面、背面の左半側、または限局皮膚面のみを一定放射強度で照射した。一部実験では3種のフィルタ-を用い、照射波長域をさらに限定した。持続(1時間)、反復(2分照射、2分遮断)、単一(約10分)照射における体温調節反応を関節した。また顔面照射の有無の効果を比べ、さらにその際の選択快適室温を比較した。(1)皮膚広域の持続照射では、体温の初期下降はほとんどなく、指尖血流量の増加、発汗量の増加は急速で、発汗量は早期に定常値に達した。深部体温の立ち上がり速度、上昇度ともにNIRがFIRに比し、有意に低かった。(2)短時間(単一または反復)照射には、指尖の血流量が、とくに比較的低室温(23〜25℃)で著明に応答し、また発汗時には、一般に照射、非照射部位の発汗量も照射周期に一致して著明に変動した。照射部位の発汗応答の大きさは、MIRで劣る傾向があり、非照射部位では、MIRで最も大きかった。さらにフィルタ-を通した皮膚小部位の短時間照射では、照射部位では3.6〜8.0μm、非照射部位では2.7〜3.5μmに対する発汗応答が最も大きく、1.3〜2.7μmでは応答が弱かった。(3)顔面照射の有無は、反復照射では反応に影響しないが、持続照射では、顔面を遮ると照射効果が著しく軽減され、選択快適室温も上昇した。赤外線の長波長成分(とくに波長3μm前後の中間赤外域)は、ごく表層で吸収され、皮膚温度受容器の動的応答を強く促し、照射部で強い温熱感をもたらし、全身発汗反応を効率よく誘発する。一方、近赤外線は皮膚面でかなり反射され、皮膚深部まで浸透し、温度受容器に対する刺激効果が少なく、迅速で有効な熱放散反応の誘起には最適とはいい難いと結論された。
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