血圧は麻酔薬や拘束によって著しい影響を受けるので、本実験はラットを用い全て無麻酔・無拘束のもとで行った。すなわち前もって腹部大動脈内に留置した血管チュ-ブを介して血圧の絶対値を測定し、また薬物注入用のガイドカニュ-レを慢性に脳内に植え込み、水・食塩水および食餌は自由に摂取させた。1)reninおよびangiotensin(AII)の脳室内投与により、AII受容体を介して血圧は上昇する。本受容体の反応性は高血圧自然発症ラット(SHR)では、対照のWKYより亢進する。2)血圧上昇に与かるAII受容体は、扁桃体中心核、傍室核には存在せず、視索前野、視交叉上核には認められ、このAII受容体の感受性はSHRにおいて視索前野では亢進し、視交叉上核では差がない。6週令および15週令で比較することにより、この部位での亢進は高血圧の誘因より維持に与かるものと考えられる。AIIの血圧上昇作用に、GABAおよびtaurineが拮抗するが、その部位は視索前野ではなく、他脳内部位を介す間接的なものと考えられる。3)AIIの中枢性昇圧のみならず中枢性の水・食塩摂取促進にも、視索前野は重要な作用部位で、この反応性もSHRで亢進する。この部位におけるAIIの中枢作用に、脳内存在のatrial natriuretic peptide(ANP)が拮抗し、この拮抗はSHRのみでみられることから、ANPの感受性もSHRでで亢進する。さらにAIIの中枢性昇圧の神経経路としては、後部視床下部も重要で、この部位でのANPの拮抗作用もSHRで強い。したがって視索前野および後部視床下部におけるAIIあるいはANPの反応性の変化が高血圧の発症・維持に中枢において重要な役割を果たしている可能性が示された。4)さらに現在脳内angiotensin messengerーRNAを測定しているが、SHRではWKYに比し視索前野、視床下部腹内側核で高く、線状体、視床下部外側核、乳頭体などの他の脳内部位では差が認められない。
|