遺伝性血液疾患として、グロビン鎖合成の異常に基づくサラセミアと、NADH-cytochrome b5還元酵素(b5R)の欠損による遺伝性メトヘモグロビン血症を対象に研究を行った。まずサラセミアについては、台湾、タイそしてマレーシアのサラセミアについては解析を行い、フレームシフト変異とスプライシング変異とを見い出した。さらにこのフレームシフト変異が、アジア地域において複数のオリジンを持つことを多型の解析により明らかにした。また日本のδβサラセミアにおいて広範な欠失の範囲を塩基レベルで明らかにした。最近PCR法を用いて全βグロビン遺伝子を含む領域を増幅し、これについてクローニング、シークエンシングそしてオリゴヌクレオチドとのドットハイブリダイゼーションを行う簡便な解析法を確立した。この手法を用いて、現在タイにおいて約70個のβサラセミア遺伝子の解析をほぼ終了し、全部で9種類の変異が存在することを明らかにした、この内2種はタイに特有な新しい変異である。これらの知見はタイにおけるDNA診断を確立する上で重要である。さて、遺伝子治療に際しては、遺伝子の発現機構の解明が必須であるが、このために有効な赤芽球系細胞の同定を試みており、新たに細胞株を見い出し現在種々の誘導剤のグロビン鎖合成への影響を量的及び質的な面から検討している。一方遺伝性メトヘモグロビン血症に関しては、その病因遺伝子であるNADH-cytochrome b5還元酵素遺伝子を正常者から単離し、35kbにわたる全塩基配列を決定した。この疾患は欠損が見られる組織ごとに、全身型、赤血球型、血球型とに分類されている。全身型については遺伝子を解析し、塩基変化を見出しており、このためNADHとの結合に障害をきたすアミノ酸置換が生じることがわかった。さらに他の2型についても患者及びその家族から得られた血球を用いてEBウイルスでトランスフォームした細胞を分離し、解析を進めている。
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