核DNAの損傷と修復は細胞の分化に必要か?

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 63480139
• 研究機関: 長崎大学
• 研究代表者: 中根 一穂 長崎大学, 医学部, 教授 (60164240)
• 研究分担者: 小路 武彦 長崎大学, 医学部, 講師 (30170179)
• キーワード: DNA損傷 / DNA修復 / 細胞の分化 / Nick Translation

研究概要

紫外線照射がマウス耳介におよぼす影響:HL60細胞及び末梢血リンパ球の研究から紫外線で核内DNAにsingle stranded breakes(SSB)を導入すると、それら細胞は分化するとの結果を得たので、同様な現象は体内でも発生するかを検討する目的で、マウスの耳介を対象として一連の検索をした。マウスの耳介に紫外線照射して、照射後時間0,2,24時間で耳介を切断して、新鮮凍結切片を作製して、これら切片をEthanol/acetic acidの3:1の混合液で固定した。紫外線無照射の耳介切片にnick translationを施行すると、基底細胞の核周辺が主に染色されたが、切片を更にproteinase Kで処理して、nick translationを施行すると、表皮の全細胞の核が染色された。紫外線照射した耳介では、照射直後のSSBの分布は無照射の耳介と大差なかったが、照射後2時間では頻度が上昇する傾向が基底細胞核で観察された。上層の表皮細胞では照射直後の分布と大差なかった。紫外線照射後24時間では、SSBは基底細胞核内周辺部では無照射耳介と同様な分布を示したが、上層の表皮細胞では照射直後の分布と大差なかった。以上の結果は紫外線無照射の耳介の表皮基底細胞核の周辺部にDNA polymeraseと接触可能なSSBが存在し、この部分のDNAは障害を受けても修復が可能であるが、しかし、上層の表皮細胞の核にあるSSBはDNA polymeraseと接触できず、これらの細胞のDNAは修復されない事が解明された。遺伝子発現にはDNA polymeraseを含む各種DNA合成酵素やregulatory element binding proteinと核内DNAとの接触を必要とすると、今回の手法で修復可能なSSBの存在する箇所のDNAからhnRNAへの転写が起こると示唆された。細胞質内に存在する特定な塩基配列を持つmRNAを細胞単位で定量する方法論も開発したので、現在、紫外線照射より発現する遺伝子のin situ hybridizationによる同定とその定量化を試みている。

研究成果

• [文献書誌] P.K.Nakane: "States of the art of immunoelectron microscopy in Japan" J.Electron Microsc.38. S135-S141 (1989)
• [文献書誌] 小路 武彦: "In situ hybridization(nonーradioactive)法による特異的mRNAの局在証明" 肝胆膵. 19. 957-963 (1989)
• [文献書誌] 中根 一穂: "非放射性in situ hybridization(ISH)法" Human Cell. 2. 356-362 (1989)
• [文献書誌] Y.Seko: "Intracellular assembly of newly synthesized canine cardiac myosins." Cell Biochem Function. 8. 117-130 (1990)
• [文献書誌] I.Sugawara: "In situ localization of the human multidrugーresistance gene mRNA using thymineーthymine dimerized singleーstranded cDNA" Jpn.J.Cancer Res.81. 949-955 (1990)
• [文献書誌] 中根 一穂: "21世紀に向けての血液細胞学ー非放射性in situ hybridization(ISH)法" 衛生検査. 39. 105-108 (1990)
• [文献書誌] 中根 一穂: "細胞単位でのmRNAの定量" Oncologia. 23. 7-11 (1990)
• [文献書誌] 和泉 伸一: "蛍光抗体法、酵素抗体法の手技" 日本臨床. 48. 1335-1339 (1990)
• [文献書誌] T.Koji: "Review:Localization in situ of specific mRNA using ThymineーThymine dimerized DNA probes." Acta Path.Japonica. 40. 793-807 (1990)
• [文献書誌] P.K.Nakane: "Modern histochemical methods in mucosal immunology." Proceedings of 6th International Congress of Mucosal Immunology.(1991)
• [文献書誌] P.K.Nakane: "In situ hybridization using TーT dimerized nonーradioactive probes." Proceedings of 8th Nikko Conference on Brain Tumors.(1991)
• [文献書誌] PaulK.Nakane: "In situ hybridization using TーT dimerized nonーradioactive probes." Proceeding of Sixth Nagoya International Symposium on Cancer Treatment.(1991)
• [文献書誌] 中根 一穂: "Ii situハイブリダイゼ-ション手法" 中根 一穂, 1-14 (1989)
• [文献書誌] 小路 武彦: "Ii situハイブリダイゼ-ション手法" 中根 一穂, 84-121 (1989)
• [文献書誌] 中根 一穂: "肝とアルブミン" 関東肝臓集談会, 73-83 (1989)
• [文献書誌] 小路 武彦: "組織細胞化学1989" 日本組織細胞化学会, 163-173 (1989)