北海道では野生動物間における多包条虫の流行が各地で確認されており多包虫症患者の多発が懸念される状況となっている。しかし、この疾患は病巣部の外科的切除以外に適切な治療法がなく、潜伏期が長いために自覚症状が出現した時点では完治する可能性は極めて低い。そのため、確実な早期発見と治療のための診断法と治療法の開発が望まれている。そこで、昭和63年度より科学研究費補助金を受け、多包虫症の診断と治療へのモノクローナル抗体の応用に関する本研究が開始された。 初年度は、抗体生産融合細胞を作製することを主な研究目標とした。その結果、現在までに感染マウスから2種類、免疫マウスから18種類の細胞株を確立した。実験当初、脾細胞の供給現としては感染マウスを使用したが、この系ではIgM抗体産生株が多く、我々が目的としていた胚細胞に特異的な抗体も得られなかった。チャイニーズハムスターから得た包虫組織でマウスを免疫する方法も試みたが、中間宿主成分が抗原刺激となってしまい。良好な結果が得られなかった。そこで、免疫方法を工夫し、感染マウスの包虫組織ホモジネートでマウスを頻回免疫することにより、中間宿主成分が抗原刺激となることを避けた。この結果、胚細胞に特異的名IgG1抗体産生株を作製することができた。次年度以降はこの抗体にアイソトープや天然毒素を結合させ、放射線診断や薬剤治療への応用を検討する予定である。血清診断様の抗原を精製するためには、感染マウスから作製したモノクローナル抗体をアフィニティークロマトグラフィーのリガンドとして使用するのが良いと考えられる。感染マウスから得たモノクローナル抗体には、イムノブロット法で患者血清と反応するポリペプチド(67kd)と位置的に同一のバンドを識別するIgM抗体があり、現在、この抗体を用いて抗原を精製している。精製抗原が得られたら、酵素抗体法への応用を検討する予定である。
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