われわれは平成元年度までの研究で、マウスtype C xenotropic及びecotropicウイルスのenv領域、ecotropicウイルスのgag及びpol領域と相同性を持つ配列が、その存在様式は異なるけれども、日本住血吸虫・マンソン住血吸虫の成虫あるいは虫卵に存在し、また、抗BV2gp70抗体(env遺伝子産物であるウイルス外被膜糖蛋白質)で住血吸虫雄成虫の外被下層と雌成虫の卵黄腺に特異的反応が見られることを明らかにした。内在性xenotropicレトロウイルスの外被膜糖蛋白質に対して自己抗体を産生する(NZBxNZW)F1マウスに日本住血吸虫とマンソン住血吸虫のセルカリアを各々感染させて、そのレトロウイルス抗原の発現を寄生率(成虫回収率)の変動を指標として検討したが、著明な因果関係は認められなかった。両種住血吸虫虫卵にBLVとMCFを各々感染させ、その虫卵及び成虫DNA中のレトロウイルス関連配列の存在をサザンブロット法で検索したが、現在までのところ明確な感染成立の証拠は得られていない。PCR法を用いて住血吸虫遺伝子中のマウスレトロウイルス関連配列の検出を試みた。この場合、用いるプライマ-の配列が限定できないので、アニ-リングの温度・時間及びPCRのサイクル数に種々の検討を加えた。プライマ-としてはMo-MuLVのgag、polそしてenv領域について作成し、検出にはF-MuLVプロウイルスDNAをプロ-ブとして用いた。polのプライマ-を用いた反応では住血吸虫や肺吸虫DNAからその関連配列が増幅される条件を設定でき、これによりダイレクトシ-クエンシングによる解析の可能性も考えられた。それに対してgagのプライマ-を用いたPCRでは現在まで日本住血吸虫とマンソン住血吸虫でのみ配列の増幅が見られた。また、envのプライマ-を用いたPCRについては検討中であるが、マンソン住血吸虫成虫で増幅される場合があり、これらの各DNA中での存在様式に差のあることが示唆された。
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