細菌性赤痢発症のためには、菌が腸上皮細胞へ侵入し、細胞内で増殖・拡散を経て隣接細胞へ拡散する(細胞間拡散)ことが不可欠である。赤痢菌の保有する230-Kbプラスミド上には、この細胞侵入に関わる遺伝情報がコ-ドされていることが明らかにされている。我々の研究によれば、それらは6つの遺伝領域から構成され、その中の5つの領域は31KbのDNA上にクラスタ-として存在している。その詳細は遺伝子と産物の解析は、現在進行中であり近い将来解明されることが期待されている。一方、細胞間拡散に関わる菌側の因子は不明な点が多く、現在までvirG遺伝子の他、染色体上のkcpA遺伝子をはじめとする多くのビルレンス遺伝子群が関与していると推定されているが、その数・種類・部位・役割についてはほとんど判っていない。そこで本年度は、virG遺伝子(230-kbプラスミド上のビルレンス遺伝子)とkcpA遺伝子の、細胞間拡散に果す役割解明に焦点をしぼり、分子遺伝学的・細胞生物学的解析を行い、以下の結果を得た。(i)virG遺伝子は、感染した上皮細胞内に於て、F-アクチンの凝集を介して、菌が拡散する機能に関与していた。(ii)virG遺伝子の産生する116kD蛋白の発現は、kcpA遺伝子により転写以降の段階で正の調節を受けていた。(iii)virG遺伝子翻訳枠(ORF)内にコ-ドされる、 75kDとそれ以下の複数の蛋白は、細胞侵入後の菌形状を正常に維持するのに必要であった。(iv)kcpA領域の1550bpの塩基配列を決定し、12.3KDの蛋白をコ-ドするORFを同定した。なおこれらの成果の一部は、Mol.Microbiol(1989)に発表した。
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