研究概要 |
赤痢菌の腸上皮における感染は,菌の細胞侵入,細胞内増殖・拡散および隣接細胞への再侵入の3つの過程から成る。細胞侵入性は大プラスミドにコ-ドされる遺伝子群に,それ以降の過程はプラスミド上の<virG>___ー遺伝子の他染色体上に多数の遺伝子に支配されている。本研究と他の報告を総合すると,菌の細胞間拡散には<virG>___ー遺伝子が中心的役割を果し,事実VirG蛋白が細胞内のFアクチン凝集を誘導しこれを介して拡散が行なわれている。この<virG>___ー発現には,プラスミド上の調節因子,<virF>___ー,と染色体上の<KcpA>___ー領域が各々正に働いている(本研究)。そこで細胞間拡散に係る染色体上の遺伝子を同定する目的で,B群赤痢菌染色体へTn5__ーランデム挿入を行い,培養細胞感染における菌のプラ-ク形成能を指標に変異株の単離を試みた。その結果43株のLPS変異株と1株のチミン要求株を得た。それらはいずれも細胞侵入性は正常であったが、隣接細胞への再侵入はできなかった。細胞侵入後の挙動において,LPS変異株は増殖・分裂,細胞内拡散は見かけ上正常であった。しかしチミン要求株は,細胞内増殖が抑制され,経時的に生菌数が減少した。これらの変異領域を染色体上にマップするため,<Nat>___ーI切断地図を作製し大腸菌Kー12株の遺伝構成との同異を調べた。B群赤痢菌YSH6000株の全染色体長は大腸菌Kー12株とほぼ等しく,染色体上<lac>___ー領域と,30分から40分領域各々欠失と逆位が見られた。これを基礎に上述のLPS変異株とチミン要求株のビルレンス領域をTn5__ー挿入を利用しマップした。この結果LPS変異株は約44分の<rfd>___ーと<rfc>___ー,約81分の<rfa>___ーに関連していた。チミン要求株は<thyA>___ーの変異株であった。以上の結果,赤痢菌の細胞間拡散には,プラスミド上の<virG>___ー遺伝子と共に,染色体上の<kcpA>___ー,LPS合成遺伝子群,<thyA>___ー遺伝子が不可欠であることが明らかになった。
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