研究概要 |
恙虫病リケッチアには、以前からGilliam(G),Karp(KP),Kato(KT)の3血清型が知られていた。また患者から分離されるリケッチアの中に、マウスに対して強毒性の株と弱毒性の株が存在することもすでに知られていた。我々は1984年に上記3型とは血清型を異にするShimokoshi(S)株を、さらに1986年にはKawasaki(KW)株を発見し、しかも、上記のG、KP、KT株はいずれも強毒株であるのに、S及びKW株はいずれも弱毒性の株であることを知った。そこでこのような強毒株と弱毒株で異なる抗原性を示す成分を検索し、その病原因子としての性状を明かにしたいと考えて、本研究を開始した。その後本研究を行っている間に、さらに異なる血清型の株としてKuroki(KR)株を発見し、これも弱毒株であることが判ったので、この株も含めて、強毒株としてG、KP、KTの3株を、弱毒株としてS、KW、KRの3株を用いて比較した。 得られた研究成果は次ぎのように要約される。(1)このリケッチアの血清型を決定しているのは、分子量54,000ー56,000(54ー56K)蛋白の抗原性によること。従ってこの蛋白が病原因子として何等かの役割を担っていることが判明した。(2)G、KP、KTの3型の54ー56K蛋白を、完全に精製することに成功し、そのNー末端アミノ酸配列を比較したところ、株間で特異な差異が認められたこと。(3)さらに上記6型のすべてについて、54ー56K蛋白遺伝子をクロ-ニングし、その解析からこの蛋白の全構造が明かにされた。そしてこの蛋白中に、4箇所の株間で異なる領域(Variable domain)が存在することが判明した。(4)この蛋白のNー末端には22個のアミノ酸からなるシグナルペプチドが付いており、また分子中には疎水性領域と親水性領域が交互に存在する膜蛋白の性質を有していた。今後、この蛋白の時定領域について、合成ペプチドを作製し、その生理活性を調べる予定である。
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