研究概要 |
恙虫病リケッチアには数種の血清型が存在する。これらの血清型はリケッチアの表層に存在する分子量56K蛋白の型特異的抗原性による。一方このリケッチアにはマウスに対して強毒性の株と弱毒性の株がある。そしてこの病原性の強弱はその血清型と関連する。従ってこの56K蛋白は病原因子であり、その分子構造の差異が病原性の強弱を決定していると考えられた。そこで本研究では、56K蛋白の分子構造の差異を強毒株と弱毒株の間で比較し、病原性に係わる分子構造を明かにする目的で実験を行った。方法としては、強毒株としてGilliam,Karp,Katoの3株を、弱毒株としてShimokoshi,Kawasaki,Korokiの3株を用い、その56K蛋白構造を、生化学的方法や分子遺伝学的方法により明かにした。得られた成果は次ぎの様に要約される。(1)この蛋白のNー末端側に22個のアミノ酸よりなるシグナルペプチドが存在した。(2)この蛋白遺伝子の5'ー側及び3'ー側の非コ-ド領域の塩基配列は株間で比較的高い相同性を有していたが、ORF領域の相同性は株間で異なり、71ー89%であった。特にアミノ酸配列を比較した場合、その配列が株間で大きく異なる4つの可変部域が認められた。(3)この蛋白は親水性領域と疎水性領域を交互にもつ膜蛋白としての性状を有し、4つの可変部域はいずれも親水性領域に存在した。従ってこの可変部域がリケッチアの表面に露出し、抗原性決定基となっている可能性が示唆された。(4)Kawasaki株を除く他の5株では、Cー末端の終止コドンから約20bp下流にヘアピンル-プ構造が認められた。 以上のように、6株の56K蛋白の全分子構造を明かにすることができたが、その株間の差異は予想以上に大きく複雑で、その構造を比較しただけでは、病原性との関連性を見出すことはできなかった。しかしここで得た知見は今後の研究に多くの示唆を与えるものであり、今後は特に可変領域の構造と病原性の関連を更に詳細に究明したいと考える。
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