世界的な流行域の拡大がWHOにより指摘されている人体に重篤な病害を与える条虫症の免疫学的予防法の確立は急務であるが、その基礎となる宿主ー寄生虫相互関係の免疫学的研究は十分ではない。条虫の生活環の完成には少なくとも2種の動物が必要であり、条虫感染予防のためには理論的には中間宿主、終宿主いずれかにおける生活環を断てばよいことになる。 そこで、条虫感染における宿主ー寄生虫相互関係を解析するために、Hymenolepis属の数種とTaenia taeniaeformisを用いて感染実験を行い、(1)成虫は十分な免疫原性を有するが、擬嚢尾虫のそれとは質が異なっている、(2)擬嚢尾虫や成虫に対する免疫は発育期特異性を有するが、種特異的であるとは限らない、(3)生活環のなかで、中間宿主に甲虫を必要とするH.microstomaとH.diminutaの六鉤幼虫が、直接終宿主の腸組織内へ侵入することが始めて明かとなり、H.microstomaのpatent infectionを経験したマウスが、抗擬嚢尾虫抗体や抗成中抗体のみならず、抗六鉤幼虫抗体をも産生するという事実を良く説明できるだけでなく、これら条虫の生虫卵を直接経口投与されたマウスが、抗六鉤幼虫抗体のみを産出したり、同種のみならず異種の六鉤幼虫の攻撃感染に対しても強い抵抗性を示すことも極めて良く説明できることとなった。 加えて、(5)遺伝子組換え技術を用いて大腸菌に発現させることに成功したT.taeniaformisの六鉤幼虫特異タンパク質のうち、21kDaの分子量のものが宿主感染防御抗原(組換えワクチン)としての役割を果たすことが明らかになった。この結果は、組換えDNA技術を利用して六鉤幼虫抗原の発現・産出に成功した初めての報告である。 以上が本科学研究費補助金によって得られた成果であり、その交付に対して深甚の感謝を申し上げる。
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