研究概要 |
昭和60年度にわれわれが独自に調査した,漁村を代表すると思われる和歌山県有田郡湯浅町栖原を対象地区とし,昭和63年度と同様の在宅高齢者に関する5年後のコホ-ト調査を行った.この際,われわれが平成1年度に作成した「外面的な」知的機能スケ-ルを利用し,標準化を行う予定であったが,この地区に在住する重度痴呆患者が少ない。情報を提供してくれるはずの家族の協力が得られがたい,という理由から調査内容は長谷川式簡易知的機能検査(HS),ADL評価,内科健康診断,生活実態調査にとどまった。 昭和60年度の対象者は155名であったが,このうち死亡,転居,入院,長期不在,拒否者を除く102名に対して調査ができた(生存群).再調査できなかった53名については死亡者の実数,死亡原因の確認が取れなかったので生存群と死亡群間でのデ-タ比較はできなかった.以下の結果は生存群に関するものである. 5年間で低下のめだったADL項目は「行動範囲」であり,この低下の程度は「起立」,「歩行」に比べて大きかった.横断的デ-タではこれら3つの項目は同じクラスタ-に属していたので,生活範囲の狭まりは肉体的機能と深い関連があると考察したが,今回の縦断デ-タからは生活意欲が生活範囲に与える影響も小さくないことが示唆された.HS項目に関しては基本的な見当識はほとんど低下せず,近時記銘が低下していた.遠隔記銘,記憶再生は加齢によっても比較的低下しにくい能力であることは以前から指摘されており,今回のデ-タはそれを裏づけた事になる.痴呆とは正常老化を越えた知的レベルの衰退であり,ボケの指標としては正常老人では低下しにくい見当識,遠隔記銘,記憶再生能力を使うべきであろう.
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