免疫系は著しい加齢変化を受ける。さらに最近では、老化の自己免疫説も提唱されており、免疫の加齢変化は老化の機序の研究に優れたモデルである。実際ヒトの老化に伴う免疫機能の特徴は、自己免疫疾患に類似したパタンを示す。黄色ブドウ球菌Cowan I株(SAC)は静止期B細胞に作用して、その活性化と増殖を誘導する。老人B細胞にSAC刺激を行うと著しい反応低下が認められた。生体内で十分に活性化されたB細胞は、自発的に免疫グロブリン(Ig)を産生する。老人ではこの自発的なIg産生細胞が有意に増加していた。さらに老人B細胞をパ-コ-ルで細分画すると活性化B細胞が分布する低比重分画B細胞が増加し、静止期B細胞が分布する高比重B細胞が減少していた。このように老人B細胞はポリクロ-ナルな活性化パタンを示した。次にTリンパ球機能を評価する目的で、老人T細胞を単球存在下でマウスIgG_<2a>CD3抗体で刺激し、その増殖反応を調べた。老人ではこの反応が有意に低下していたが、この反応はインタ-ロイキンスを外来性に加えたり、CD3抗体をプレ-トに固相化することで恢復し、T細胞活性化の初期事象に異常のあることが推察された。このことは、老人のT細胞異常の若返りは、適当な刺激伝達シグナルの付加が可能であることを示唆している。老化に伴う生体防御機構の変化は好中球、NK細胞についてもあてはまる。すなわち好中球機能に関しては、活性酸素産生能は正常であったが、第一の防衛線の中でも最も基本的な侵入異物への走化性の機能が老人全般で低下を示し、加齢による易感染性に関連することが示唆された。NK活性については、老人ではむしろ有意の増強を示し、特に76〜80歳でNK活性はピ-クを示した。加齢に伴って免疫機能が低下することが多い中でNK活性はむしろ増強し、他の免疫能の低下をNK活性がカバ-して生体防御機構の恒常性に一定の役割を果たしていることが示唆された。
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