本研究の目的は、冠動脈内皮細胞の培養系を確立し、冠動脈硬化症の発症・成立過程にかかわる内皮細胞の役割を明らかにすることである。しかし、残念ながら培養は未だ成功するには至っていない。冠動脈内皮細胞の培養については、文献的にもまだ報告はみられていない。以下、現在までの進行状況、方法論上の問題点、今後の改良点などについて報告する。 (1)冠動脈は内径0.2cm、長径2〜3cm程度であり、従来〓帯静脈でおこなわれてきたコラゲナ-ゼ灌流法では酵素液が十分に充填できないため、血管内皮細胞の分離が困難であった。そこでわれわれは、採取した冠動脈の内腔に細いガラス管を挿入し、一端を結紮した後に他端より血管を反転して、内皮面を外表となるように操作した後、これを酵素液中に浮置して内皮細胞を回収する方法を用いて検討をすすめている。 (2)冠動脈は試料が小さいため、分離できる内皮細胞が少量である。そこで、これを十分増殖させるために、培養液中に成長促進因子を添加して検討をすすめている。 (3)培養系の確立には対象症例の選択も重要な要素であると考えられる。比較的若年で動脈硬化の程度の軽い症例が望まれるが、しかし胆癌患者で強力な化学療法をおこなった症例(白血病患者)では成育が困難であるかの如くである。このように、対象症例を厳選して培養を試みているところである。 (4)現在、剖検例のみならず、ブタの冠動脈内皮細胞培養も並行しておこなって基礎検討をすすめている。
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