本研究の目的は冠動脈内皮細胞培養系を樹立し、冠動脈硬化症の発症と成立の過程に関わる内皮細胞の役割を明らかにすることであった。研究期間3年間に亘って冠細胞培養に努力してきたが、残念ながら期間内に成功するには至らなかった。ヒト冠動脈内皮細胞培養については、国内においてもまた国外においても、これに成功したという研究報告はいまだ見られず、この細胞の培養がいかに困難であるかが察知される。しかし、冠動脈硬化発症機構の研究にあたっては冠動脈自体の内皮細胞の培養系の確立が不可欠であり、従来用いられてきた大動脈や臍帯静脈血管内皮細胞の培養系をもってしては必ずしも代用できないと考えられる(この可能性については、既に指摘してきたことである)。 以下、われわれが実施した検討の概略を要約し、冠動脈内皮細胞培養に関する主な問題点を指摘し、更にこの研究の今後の展望について述べる。 (1)冠動脈内皮細胞の培養については、a.対象例の選択、とb.内皮細胞の採取法とが問題である。われわれは、3年目にはとくに胎児例について培養を試みたが、この場合には冠動脈が細すぎて採取が非常に困難であった。採取法と培養条件についても種々検討を試みてきた。 (2)ヒト冠動脈と平行して、現在ブタ冠動脈を使って基礎検討をおこなっている。しかし冠動脈内皮細胞は他の細胞に比較して脆弱で、容易に細胞死に陥るかのようである。 (3)冠動脈硬化の研究にあたって冠動脈自体の内皮細胞の培養が不可欠であることは既に述べたことであり、現在なお引き続き培養系の樹立をめざして研究を拡大継続中である。
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