既に初年度において、近赤外領域に蛍光を発する物質であるインドシアニングリ-ン(ICG)の蛍光分光特性及び螢光の血漿蛋白依存性を検討し、生体トレ-サとして用い得ることを確かめた。さらに、本来は工業用に開発された赤外顕微鏡を生体観察用に改造したほか、ICGの蛍光測定にあわせて光学系の調整をした。 本年度においては、作製した赤外蛍光生体顕微鏡システム下に近赤外螢光を可視化することを試みた。はじめにガラス板上に滴下した蛍光をCCDカメラを通して確認した。落射光源としてハロゲンランプと半導体レ-ザの二種類の光源を用いてICG溶液からの蛍光を観察したが、半導体レ-ザによって発する蛍光はハロゲンランプによって発する蛍光より強く、ICG濃度に依存した近赤外螢光が確認された。そこで半導体レ-ザを落射光源とした動物実験を行った。Wistar系雄性ラットを実験動物として用い、ネンブタ-ル麻酔後にICG0.75mg/kgを経静脈的に注入して、腸間膜、骨格筋及び心筋表層の微小血管を同顕微鏡システム下に観察した。腸間膜血管床内の10-30μmの微小血管はICGの静脈内投与により、CCDカメラを通してモニタ-画面上に可視化され、このときICGの血管外への漏出はほとんど認められなかった。続いて、ラット挙睾筋及び心臓をホルダ-に固定して同顕微鏡システム下に観察した。微小血管は辺縁までよく可視化され、従来の方法より血管内径の計測に好適であると考えられた。また、本装置の特徴とする深部方向への分解能については表層下500-1000μmまでの微小血管の可視化が可能であった。一方、入射光の組織表面における乱反射が大きいことが十分な蛍光強度を得るための障害になると考えられたので、光ファイバ-刺入による入射光の導入を検討したところ、入射光の観察部位への正確な誘導に若干の困難があるものの、組織深部を観察する方法として極めて有望であると考えられた。
|