近赤外領域に蛍光を発する色素として、インドシアニングリ-ン(ICG)を選び、spectrofluorometerを用いて蛍光分光特性を濃度、pH、温度等の条件を変えて検討した。その結果、ICGは765nmの励起光によって近赤外波長域(780-840nm)に蛍光を発することが確められた。この蛍光強度は、濃度域2.0-5.0ug/ml、pH8-9において極大を示した。また、蛍光強度が血漿蛋白に強く依存することが判明したため、高速液体クロマトグラフィ-により血漿の各蛋白分画の蛍光特性を分析すると、大部分の蛍光はアルブミン分画に分布し、0.5g/dl以上のアルブミンの存在下で高値を示すことが明らかとなった。以上の結果より、ICGは赤外蛍光のトレ-サとして用い得ることが確かめられた。赤外顕微鏡は本来工業用に開発されたものであったが、生体観察用に改造して用いた。蛍光を観察するためにハロゲンランプとレ-ザの二種類の落射光源を用意した。ハロゲンランプを用いる場合は干渉フィルタによって励起波長を選択し、蛍光以外の反射光はバリフィルタを組み合わせて除外した。レ-ザは、780nmの半導体レ-ザを用いた。いずれの場合もCCDカメラを用いて近赤外蛍光を画像化した。ICGをスライドガラス上に滴下して顕微鏡下に観察したところ、ICG濃度に依存した近赤外蛍光が観察されたため、引き続いて動物実験を行った。実験動物はWistar系のラットを用い、ネンブタ-ル麻酔後にICG2.0mg/kgを経静脈的に注入して腸間膜や骨格筋表層の微小血管を観察したところ、15-40μmの細動脈及び細静脈がCCDカメラを通して可視化された。蛍光強度が未だ十分でない原因として入射光の組織表面における乱反射が考えられたため、光ファイバ-刺入による入射光照射を検討した。入射光の正確な誘導が若干困難であるが、組織深部を観察する方法として極めて有望であると考えられ、心筋の微小循環の血行動態解析に現在その応用を進めている。
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