研究課題
動脈硬化には局在性がみられ、局所血流が動脈硬化の発生・進展に大きな影響をおよぼすことが示唆されているが、そのメカニズムは不明である。一方、in vitroの研究では、ずり応力により培養内皮細胞内のマイタロフィラメント束が増加することが報告されており、動脈硬化発生メカニズムとの関連が注目される。しかし生体内では、血管内の流れ構造は複雑であり、モデル実験からの推定には制約があることに加え、直接計測する方法としては、従来血管に対して侵襲的な方法以外にはin vivoにおける解析は困難であった。我々は現在までに、動脈硬化の発生・進展過程と局所血流との関係を解明するため、高周波超音波ドプラー情報処理システムを開発し、生理的条件下において血管壁にはたらくin vivoずり応力を求め、生理的条件下でのずり応力と血管内皮細胞内マイクロフィラメント束分布との関係を検討してきた。本年度は生理的条件下での結果をふまえ、生体内で局所的にずり応力を変化させた実験系において内膜初期病変を作成し、ずり応力の定量的評価をおこなうとともに、血管内皮細胞および内皮下の細胞の反応を観察した。ビーグル犬を用い、局所ずり応力を増加させるため腹部大動脈に軽度狭窄を作成し、正常食投与群(n=5)および高脂肪食投与群(n=6)にわけた。6週後に狭窄部前後のずり応力を定量し、電顕により内皮と内皮下の超微細形態学的観察を行なった、狭窄部では上流に比し血管内皮のマイクロフィラメント束は増加したが、上流および狭窄部に比しずり応力の低い狭窄部直下では内皮細胞のマイクロフィラメント束分布は減少した。正常食群では内膜病変は形成されなかったが、高脂血症群では、狭窄部直下にのみ限局した内膜肥厚が形成された。以上より局所ずり応力は血管内皮細胞の細胞骨格の一つであるマイクロフィラメント束分布に影響を及ぼすことにより動脈硬化の発生過程に関与する可能性があると考えられた。
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