研究課題
慢性の機能不全に陥った心筋は徐々に増悪、進行し循環不全をきたし最終的に個体死にいたる。この不全心筋の進展、増悪機構は未だ解明されていないが、経験的に身体活動が不全心の機能を悪化させ、逆に安静により改善すること、さらに近年、交感神経β受容体遮断剤の長期投与により心不全患者の予後が改善することが報告されている。以上のことは、運動などのストレス時の交感神経興奮と心筋β受容体刺激による心筋のカルシウムトランジェントおよび心筋仕事量(酸素需要)の増加が、細胞内代謝が障害され冠予備能が減少している不全心筋では虚血性あるいは非虚血性のカルシウム過負荷などを惹起し、心筋に対する増悪・攻撃因子として働いていることを強く示唆している。本研究の目的は不全心の増悪因子としてのストレス時の交感神経興奮の意義と機序を明らかすることである。本年度は運動により交感神経活動を亢進させた場合慢性心不全患者において心筋のカルシウム過負荷が生じるのか否か、β遮断剤はこれらの異常を改善するのか否かを検討した。慢性心不全患者(拡張型心筋症)および左室機能が良好な左室疾患患患者(対照群)を対象に運動負荷試験を行ない、カテ光マノメータによる左室圧(P)とdigitalsubtractionによる左室容積(V)を求め、安静時および運動時のP-V関係を解析した。さらに一回目の負荷試験終了後、propranolol 0.1mg/kgを静注し二回目の運動負荷試験を行ない、propranololのP-V関係におよぼす効果を検討した。その結果、1).拡張型心筋症患者では運動時の拡張期P-V曲線は上方へ偏位し、この偏位しはpropranololにより抑制された。2)対照群では運動時の拡張期P-V曲線は上方へ偏位せず、安静時の曲線上を推移し、propranolol投与後も変化を認めなかった。以上より慢性心不全患者では運動時の交感神経興奮によるβ受容体刺激が心筋カルシウム過負荷を生じることが明らかになった。
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