研究概要 |
先天代謝異常症、特に遺伝性ライソゾ-ム蓄積症に対する骨髄移植療法の作用機構を研究するために、ニ-マンピック(NP)病のモデルマウスに正常の同系マウスの骨髄を移植して、3週後に肝臓および脳を採取し核分画,lysosome分画,mitochondria分画,microsome分画上清とに分離し、夫々の分画についてそのマ-カ-enzymeを測定して各分画が分離されているのを確認して後に、sphingomyelinase活性およびsphingomyelin,cholesterolの量を測定した。その結果、正常の骨髄を移植されたNPマウスの肝のlysosomeのsphingomyelinase活性は、移植前に比較して明かに増加しており、またlysosomal分画に蓄積したsphingomyelinとcholesterolが減少しているのが認められた。脳については、肝臓ほどに明確な成績は得られず、lysosomal分画におけるsphingomyelinase活性の明かな上昇およびsphingomyelinとcholesterolの減少はみられなかった。正常マウスにNPマウスの骨髄を移植した研究では,肝のlysosome分画のsphingomyelinase活性はやや低下し、sphingomyelinおよびcholesterol含量の軽度の増加を認めた。一方、NPマウスの骨髄を移植された正常マウスの脳のlysosomeは、移植されない正常マウスの脳組織のlysosomeに比較して、比重がやや軽く変化しており、sphingomyelinとcholesterolの含量がやや増加しているのが認められた。以上の成績から、正常マウスの骨髄をNPマウスに移植すると移植された正常骨髄細胞のlysosome酵素がNPマウスの肝のlysosome内にとり込まれ、増加したsphingomyelinaseにより蓄積されたsphingomyelinが分解されるものと思われた。また、NPマウスの骨髄を正常マウスに移植した実験によって正常マウスの脳のlysosomeの比重が変化した事から、骨髄移植の効果は徐々に中枢神経に及ぶものと推測され、遺伝性ライソゾ-ム蓄積症に対する骨髄移植療法は、神経症状がないか、あっても徐々に進行する疾患には有望な治療法と思われた。
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