研究概要 |
目的 分裂病の基本障害である認知行動障害を改善するための心理学的レベルからの働きかけの有効性が脳のいかなる機構を背景とするかを、事象関連電位P300を指標として生理学的に解明することを目的とした。 対象・方法 分裂病患者14例を対象として三音弁別課題を行ない、その際に出現するP300成分をFz,Cz,Pzから記録した。刺激は1:4:1の頻度で出現する950:1000:1053Hzの音刺激からなり、950あるいは1053Hzいずれかの刺激を目標としてキ-反応することを課題とした。200刺激からなるセッションを6セッション行ない、中間の3,4セッションに「コ-チング法」として目標音出現後約1100ミリ秒後にブザ-を提示する方法により目標音を教示し、その弁別を容易にするよう試みた。 結果 対象者全体としては、コ-チング前の第1,2セッションとコ-チング後の第5,6セッションとを比較すると、正反応率・反応時間・P300には有意な変化は認められなかった。目標音に対するP300振幅はコ-チング前のP300振幅が小さい群(small群:5μV未満、6例)ではコ-チングにより有意な増大を、大きい群(large群:5μV以上、8例)では有意な減衰を認め、同時にsmall群では正反応率の改善傾向を認めた。低頻度非目標音に対するP300振幅については、large群では減衰を認めたがsmall群では変化を認めず、目標音へのP300振幅の変化とは異なる動きを示した。 考察 以上の結果から、(1)心理学的レベルからの働きかけにより分裂病患者のP300振幅が一定程度変化しうること、(2)この変化は分裂病患者全体に共通ではなく、元来のP300振幅の大小などにより異なる可能性があること、(3)こうした変化は働きかけの非特異的効果とは考えにくいこと、(4)P300成分が精神・行動・認知療法などの心理学的レベルからの治療法の適応や効果の判定において有用な指標となりうることが、結論された。
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