研究概要 |
初年度の研究は研究代表者の開発した「紡錘波。デルタ波睡眠図」に関する正常基準値の確率が中心となった。この定量的睡眠図は紡錘波出現数とデルタ波成分積分値の二つの変動パタ-ンから成る。前者を便宜上、紡錘波パタ-ン、後者をデルタ波パタ-ンと呼ぶ。この睡眠図から紡錘波増加期(SE期)、紡錘波修飾期(SM期)、レム睡眠期(REM期)の3つの睡眠期に分類した。SE期は睡眠の進行・維持に関係し、SM期は睡眠の出現前の覚醒の時間や状態によって強い影響をうけて変動する時期であることが示唆された。レム睡眠期は従来の多くの研究者によって発表された特性と変りがない。 2年目の研究は自律神経系症状が著明に出現し、しかもある程度障害部位の判明している神経疾患、すなわち多系統変性疾患(shy-Drager症候群3例、オリ-ブ・橋・小脳萎縮症2例)や筋緊張性ジストロフィ-4例を対象として、その睡眠障害の定量的分析および自律系指標との関連を分析した。上記の3疾患については各々こまかい点では差異があるが、全体的な異常所見として、デルタ波成分の活動の低下が著明であり、個々の睡眠脳波の構造要素については、紡錘波の平均振巾の低下、デルタ波成分の出現率と振巾の低下がみとめられた。筋緊張性ジストロフィ-とshy-Drager症候群では紡錘波の平均周波数が増加する所見もみとめられた。比較的脳幹下位の障害の多い疾患でも定量的分析によって大徐波成分の活動低下が著明である点は興味があった。また、睡眠障害と自律系指標との関連については、shy-Drager症候群では予測された通りに、また、OPCAでも、デルタ波成分の少ない睡眠期(たとえば,本研究員らの云うSE期)に比べて、1分間の脈拍数はデルタ波成分の多い睡眠期のほうが増加した。これは正常対照群には認められぬ現象であり、自律系指標の逆説的経過を示すもので極めて興味深い異常所見である。
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