1)Thioacetamide(TAA)の長期連続投与による肝硬変ラットからは、肝細胞癌は発生しないことが確認された。TAA投与開始後約6ケ月で癌腫様の結節性腫瘤は形成され、細胞回転は亢進するが胆管上皮類似の細胞であり、かつ転移も認められずcholangiofibrosisと称されるものである。また、肝硬変の再生結節の細胞は2c優位で、かつ細胞回転も速くないとの成績であった。 2)肝細胞癌発生薬剤とTAAの同時投与の検討を行った。3'-methyl-diazoaminobenzene(DAB)とTAAを同時に投与したラットは、死亡率が高く、かつ、癌化する肝細胞と肝硬変所見は関連性がないため適切な実験モデルとは言い難いことが判明した。 3)癌化のinitiatorをあらかじめ投与しておき、そのラットを肝硬変化させるモデルの作成を行った。initiatorとしてdiethylnitrosamine(DEN)を1回腹腔内投与し、3ケ月間、組織学的変化、細胞回転、DNA分析および細胞癌化の一指標であるγ-GTP染色を行ったが何らの変化もみられなかった。それに対し、DEN1回投与ラットにTAAを連日飲用させると4週から肝細胞の細胞回転は著しく亢進し、TAA投与量が多いと亢進程度も高度であった。さらに、12週では肝細胞癌も著しく増加した。すなわち、肝硬変を基礎とする肝細胞癌の適切なモデルと考えられこれを中心に検索をすすめつつある。目下、BrdUを用いたLabeling index(S期細胞標識率)が15o/ooを超える場合は癌化傾向が極めて高いこと(正常2〜3o/oo)、γ-GTP陽性細胞数増加などが肝硬変癌化の徴候と考えられる。さらに癌遺伝子c-mycの増加度も検討中で、この発現が肝硬変癌化の予知に有用である可能性を認めている。 4)臨床例(肝硬変合併癌)についても同様な検索を行っているが一定の成績は得ていない。
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