I.実験的検討 1.肝硬変動物の作成:ラットにThioacetamide(TAA)を4ヶ月以上投与すると組織学的に肝硬変が生じ、6ヶ月後には胆管細胞癌類似の腫瘤が形成された。 2.TAAによる癌遺伝子の発現:TAA投与により肝細胞DNAの損傷がnicktranslation法で定量され、その修復過程でmyc遺伝子が発現が亢進した。 3.上記肝硬変の形成過程における肝細胞の細胞回転、DNA分析、組織学的変化、遺伝子解析:(1)分離肝細胞をもちいたFlow Cytometryによる分析では、肝実質細胞はTAA投与開始8週までに4c優位から2c優位にあり、再生結節は2cが主体で、これから肝細胞癌の発生は考えにくい。遺伝子上も著変をみない。 (2)BrdUを用いた細胞回転の測定では、肝実質細胞に比して胆管上皮はTAA投与初期から著しく早く、特に胆管細胞癌類似の腫瘤(cholangiefibrosisのそれは高度であった。またこの部のc-myc遺伝子の発現もみられ、胆管上皮の癌の初期的段階と推定された。 4.肝硬変を基礎とする肝細胞癌モデルの作成:TAA肝硬変にiniatorとしてdiethyl-nitrosamine(DEN)を1回投与してその後にTAAを連用し肝硬変を作成した。その細胞回転、DNA分析を行うと、DEN単独、TAA単独ではみられない著しい細胞回転の亢進が肝実質細胞にみられた。24週以後には肝細胞癌と思われる組織所見が得られるとともに、γ-GTP陽性細胞巣も増加したことから、肝硬変を母地とする肝細胞癌の適切なモデルと考えられた。目下、この遺伝子分析を行っている。 II.臨床的検討 肝癌(原発性、転移性)症例についても類似の成績を得つつある。
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