経静脈栄養剤として用いられる脂肪乳剤に含まれる人工脂肪粒子は、カイロミクロンと異なってアポ蛋白を持たないにもかかわらずその血管内代謝はカイロミクロンに近似している。人工脂肪粒子がリポ蛋白リパーゼに代表される脂質関連酵素と反応可能なためには、人工脂肪粒子が血中でアポ蛋白を結合しなければならない。本研究では、人工脂肪粒子が結合するアポ蛋白の種類と結合様式に関して以下の知見が得られた。人工脂肪粒子が血中で結合するアポ蛋白は、アポ蛋白CII、CIII、Eの3種類である。アポ蛋白CII(アポーCII)とアポ蛋白CIII(アポーCIII)は、人工脂肪粒子が投与されると直ちにHDLから脂肪粒子に向かって移動し、この移動は脂肪粒子投後3から5分で完了する。アポーCIIとアポーCIIIはリポ蛋白リパーゼを介して脂肪粒子の加水分解を調節したのち、脂肪粒子の加水分解に対応して脂肪粒子から離れてHDLに戻る。アポEはHDLから人工脂肪粒子に向かって直ちに移動するが脂肪粒子の加水分解後も脂肪粒子の加水分解産物(コア)にとどまると考えられる。アポーCIIとアポーCIIIは、脂肪乳剤を90分間隔で反復して投与して得られる反復性高脂血症においても、その都度脂肪粒子に向かってHDLから移動する。このことから、アポーCIIとアポーCIIIは人工脂肪粒子とHDLの間を活発に往来しているものと想像される。また人工脂肪粒子血漿を37℃で5分、60分、19時間反応させると、アポーCIIとアポーCIIIは反応後すでに5分で人工脂肪粒子に移動ることがin vitroで確認されたことより、アポ蛋白の人工脂肪粒子への移動には臓器は関与せず、アポ蛋白の人工脂肪粒子に対する親和性によって人工脂肪粒子とHDLが接触する際に移動しているものと思われる。
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