研究概要 |
初年度は未だ不明な点の多い多臓器不全(MOF)の発症mechanismに関する研究を、動物実験及び臨床的研究により押し進めてきた。研究は二つの柱より成る。まずMOFに於ては、その初発臓器がほとんど肺であることから、動物実験は敗血症性ARDS発症mechanismに焦点を絞った。即ち実験動物ラットに盲腸結紮穿刺法にて敗血症を作成、経時的に好中球、肺胞マクロファージ(Mφ)を採取しその機能変化を測定、同時に測定した液性因子(血中enclotoxin(ETx)血中C3a,C4a,C5a等)の変動との関連を検討。一方、臨床に於ては特に腹部重症感染症に起因するMOF患者について好中球機能と補体系との関連を検討し,以下のことを見出した。敗血症作成後血中ETx及び肺胞洗浄液中ETxの増加に伴い肺胞Mφはその伸展率、superoxide産生能を増加させ、また細胞内顆粒酵素β-Glucronidase(β-Glu)活性は減少した。また末梢血好中球は敗血症伸展と伴に機能亢進から機能低下に向かい、敗血症ARDSに肺胞Mφが強く関与していることが示唆された。現在肺胞Mφのアラキドン酸代謝産物(LTB4.SRS-A.5,12,15-HETE.)産生能をHPLC,RIAにて測定中である。 次に臨床的研究として、腹部重症感染症より発症したMOF患者に於て活性化好中球と補体系との関連を検討、重症感染症非MOF症例、一般消化器外科手術後非感染症と比較した。MOFでは血清補体価C4.CH50は低下、補体分解産物C3a.C4a.は増加し、補体標準経路の活性化を示す。非MOFではC3aの増加と比べC4aの増加は軽度で補体第二経路の活性化を示した。好中球機能は補体C3bi receptor(CR3)の増加に伴い貧食能・脱顆粒が増加、C5aに対する遊走能が低下し、MOFに於て補体系活性化に伴う好中球機能の活性化が示された。今後臨床症例を増やしMOF発症mechanismを検索、更に治療法の一つとして、免疫療法の可能性を検討していきたい。
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