本研究ではCsA使用腎移植患者末梢血リンパ球の各種サイトカイン産生能を検討し、これがCsA至適投与量を決定するための免疫抑制レベルの指標、あるいは拒絶反応の早期診断の指標となりうるか否かを検討した。結果は免疫抑制が十分である場合、常に約40〜50%のインタ-ロイキン2(ILー2)産生抑制を示しているが、拒絶反応時においては、この抑制が消失し、ほぼ正常あるいはそれ以上のILー2産生を示し、ステロイド大量療法により再び著明な抑制を示すようになることから、ILー2産生抑制が認められない、すなわち不十分な免疫抑制状態が拒絶反応発生につながることが示唆された。また腎毒性により腎機能低下に陥った患者においてはILー2産生抑制は十分あることからILー2を拒絶反応とCsAによる腎毒性との鑑別診断の指標に使用しうる可能性が示唆された。ILー2以外にインタ-ロイキン1(ILー1)およびガンマ-インタ-フェロン(γーIFN)の産生能においてもILー2同種の結果が得られILー2ばかりでなくILー1、γーIFNといったサイトカインの産生が抑制されており、なかでもILー2は活性測定も容易でかつ患者の免疫抑制状態を反映し、免疫動態の示標となりうると考えられた。以上の実験結果を遺伝子のレベルで確認するため、患者リンパ球よりmRNAを抽出し、各サイトカインのcDNAを用いてhybridizationを行い、mRNAの発現を検討した。その結果、培養上清のレベルで得られた結果と同様にmRNAのレベルにおいてもCsA使用腎移植患者においては健常人に比べてILー2、ILー1およびγーIFNの各サイトカインにおいて著明なmRNA誘導の抑制があることが証明された。さらに、活性化T細胞レセプタ-であるILー2およびトランスフェリン(TF)レセプタ-陽性細胞の占める割合と急性拒絶反応(AR)との相関関係を検討した結果AR発症直前には両レセプタ-陽性細胞の割合が上昇し拒絶反応の免疫学的モニタリングとして有用と考えられた。
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