人工的に作製したヘムをリポソームに包理し、酸素運搬体としての機能を持つartificial red blood cellあるいはneohemocyteと呼べる物質を合成し、この物質の臨床応用のための基礎的実験を行ってきた。 この人工赤血球の溶液物性、組織への酸素運と組織における酸素放出能について検定し満足すべき結果を得た。また犬の静脈内に投与された人工赤血球の血中での半減期が6時間であることを観察した。人間の出血性ショックでは循環血液量の減少による抹消循環不全のため、組織の低潅流と低酸素症が生じ重要臓器の機能不全の原因となるが、これに対して血漿容量の補正と酸素運搬体の補給が必要である。酸素運搬体の補給に関しては正常の血液と同じ酸素運搬能を持ち、かつ粘性の点からは赤血球を含まない輸液剤が理想的であり、人工赤血球はこの条件に適うものである。出血性ショック時の人工赤血球の酸素運搬能を検討するため兎より脱血しヘマトクリット値を10%とした後、20%の人工赤血球溶液90mlを静脈内に投与した。この時のヘモグロビン値は3.6g/dlであった。この状態での兎のヘモグロビンによる動脈血酸素含量、静脈血酸素含量および動静脈血酸素含量較差は夫々5.1vol%、2.0vol%、3.1vol%で、人工赤血球によるそれは夫々2.0vol%、0.5vol%、3.1vol%であった。兎のヘモグロビンと人工赤血球の動静脈酸素含量較差の比は2:1であり、人工赤血球よりの酸素も組織で利用されていることが確認できた。人工赤血球の生体内における機能とその臨床応用の可能性についてさらに検討を加えて行きたい。
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