脳虚血時に、脳実質内に多量のアラキドン酸が蓄積するが、本物質あるいはその代謝物が内皮細胞障害を起こし、いわゆるvosogenic edemaが生じるのではないかと推論されている。そこで、当科で継代維持されている砂ネズミ脳微小血管由来の培養内皮細胞を利用し、アラキドン酸による内皮細胞障害を定量的に検討してみた。アラキドン酸はsigma社のアラキドン酸ナトリウム(MaA)を使用し、細胞障害の指標としてはトリパンブルーによる色素排除法と^<51>Crの放出率を用い、同時にプロスタサイクリン産生態の変化についても検討した。NaAの濃度は0、1、3、5、7.5、10、50、100、500、1000.μg/mlの10段階とし、作用時間は1、3、6、12、24の5段階とした。結果:(1)MaAは3μg/mlの低濃度から濃度依存性、時間依存性に内皮細胞を障害した。 (2)MaA1時間作用後では、10から1000μg/mlの範囲内では濃度依存性にプロスタサイクリン産生量の減少が認められた。考察:Maier-Hauffらによれば、vosogenic edemafluid中のアラキドン酸濃度は60μg/mlに達するとされる。我々の実験では、3μg/mlの低濃度から濃度依存性、時間依存性に内皮細胞障害がひき起されることが示され、10μg/ml以上の濃度では、濃度依存生にプロスタサイクリン産生量が減少することが示された。これらの結果は、脳虚血時の一次的脳損傷により脳実質に著増したアラキドン酸が、脳微小血管内皮細胞障害を介して、脳浮腫や脳微小循環障害に基づく二次的脳損傷を惹起する可能性を示唆するものと考えられる。
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