手術時に剔出されたヒト肝臓の病理標本の肉眼的に正常と思われる部分よりミクロゾ-ムを調製し、蛋白質量、チトクロ-ムPー450(以下Pー450)量を測定したところ非常に大きな個体差が存在した。また、肝炎や肝硬変などの疾患とこれらの含量との間には関連は認められなかった。これらのミクロゾ-ムをアミノビリン、アニリン、エトキシクマリンと反応させ代謝産物の生成量を測定したところ、雄ラット肝ミクロゾ-ム中のP450PBー1に類似したPー450分子種が多く含まれ、メチルコラントレン誘導型Pー450は少いことを示唆する結果が得られた。そこでPー450の代謝系路特異性の明らかにされているリドカインを用いて実験を行ったところ、主な代謝産物がNー脱エチル化によるmonoethylglycinexylidide(MEGX)であり、ベンゼン環の水酸化された3ーhydroxylidocaine(3-OHCID)の生成量は少いか、全く認められないことが分った。次にヒト肝ミクロゾ-ムより精製したPー450即ちPー450_<NF>、Pー450_<MP>、Pー450_<PA>を用いてリドカイン代謝実験を行ったところ、MEGXの生成はこの3種の何れでも認められたが特にPー450_<NF>で生成量が多く、また3ーOHLIDはPー450_<PA>でのみ生成が認められた。また、MEGXの生成量は再構成系実験において脂質をdilauroylphosphatidylcholineよりdioleoylphosphatidylcholineとphosphatidylserineに変更することにより増加し、この実験結果からもPー450_<NF>がP450PBー1に相当することが示唆された。そこで次にミクロゾ-ムを用いた実験系に抗P450PBー1抗体を加えたところMEGXの生成は抗体の濃度に依存して約70%迄阻害されることが判明した。さらに抗Pー450_<NF>抗体を用いて実験を行ったところほぼ同程度にMEGXの生成が阻害された。以上の実験結果よりヒト肝臓でリドカイン代謝を行うPー450分子種は主としてPー450_<NF>であり、これは雄ラット肝臓中のP450PBー1と同様の性質を有する分子種であることが判明した。
|