(1)精子の運動性維持は精子の受精能に不可欠な要素である。いわゆるhyperactivationがヒト精子に存在するか否かを高速度顕微鏡撮影装置を用いて調べ、妊孕性との関係についても検討した。ヒト精子の運動形態は4種類に大別される。タイプAは活発な動きを示すものの運動性・方向とも極めて不規則なもの。タイプBは直進するが尾部末端の大きな振幅の割にはスピードがないもの。タイプCは振幅が小さくなりスピードも増すもの。タイプDは尾部全体がダイナミックな動きを示しスピードも速いタイプである。経時的に観察すると運動形態はA→B→C→Dと変化し、Dの出現は先体反応開始の2〜3時間前である。また不妊症治療中の患者の精子について調べてみると、タイプDが30%以下の場合は体外受精が生じない、以上の成績からタイプDへの変化がヒト精子のhyperactivationであろうと推定している。 (2)より安全で効率の良い受精卵凍結保存法を開発するため、耐凍剤と希釈剤の検討を行なった。耐凍剤としてジメチルスルフォキサイド(DMSO)、グリセロール、プロパンダイオール(PrOH)を、希釈剤としてシュークロースとトレハロースを用い、マウス2細胞期胚の凍結融解を行い、融解後胚の培養成績を比較した。現在までの成績ではPrOHとトレハロースを組み合わせた場合の胚発生が良好であり、今後の臨床応用が期待できそうである。 (3)精子と卵子の接着は受精の第一歩として重要である。この現象にFibronectinが関与することが示唆されていたが、今回金コロイド標識による免疫電顕的手法を用いて精子におけるFibronectinの存在について検討した。その結果、従来報告されている卵子への精子接着部位すなわちpost acrosomal regionに一致してFibronectinの局在が認められた。
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