耳鼻咽喉科領域には、中耳腔や副鼻腔と言った空洞臓器が存在する。この臓器は、洞壁が一層の粘膜で覆われ、それぞれの洞に特有な気体成分を有したガスが充満している。そして、異常な気圧環境等に暴露すると、洞内気体は、環境気圧の影響を受けて、呼吸器の気道に直接開口するこれらの臓器は、自然孔や耳管の開閉機能によって、環境気圧と調圧がなされる。しかし、これらの臓器は、それぞれ空洞自体に特有な気体成分内容を持っているので、全くの呼吸に依存した大気が洞内の気体内容ではない。この事は、今回の科学研究費の補助に先立ち、常圧環境で中耳腔の換気を検討し、常圧環境では、全く大気が中耳腔に侵入しないことを立証している。即ち、中耳腔に関しては、中耳腔に気体を産生する機能が存在し、この機能によって中耳腔内にガスが産生され、中耳の機能である鼓膜を自由面で限りなく音響に振動し易くする効果に役立っている。この現象は、従来、教科書に記載される耳管を通して中耳腔が気体の補充を受けていると説明されるものを否定するものである。この現象を証明する事は、中耳腔の酸素分圧が大気の1/3(約50mmHg)であることや、中耳腔の粘膜下毛細血管が細胞膜一枚を隔てて気体と接触するものなどが乳突蜂巣にみられ、肺の様に気体を完全交換する様な呼吸作用ではないにしても呼吸作用の存在を示唆する構造が見られる。そして、人が側臥位になると上側の耳管開閉と下側の耳管開閉の開閉率に差が認められ、下側の耳管機能が何回かに一回の開閉を行う現象が明かとなった。この時に下側の中耳腔の内圧は、上側より有意差をもって高くなり、中耳腔の生理的環境変化に対して耳管が有機的に開閉機能を調節する現象が確認された。この上下差の現象は、従来、中耳腔の空洞換気が耳管機能に左右されると解釈、説明が行われて来たが、換気の生理学的立場から耳管機能と中耳腔換気は、全く相互依存の有機的関係で成り立つことが判明した。
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