研究概要 |
1)ハント症候群11例とベル麻痺13例より顔面神経減荷術時に炎症所見の疑われる中耳粘膜を採取し,病理組織学的研究と間接蛍光抗体法による水痘帯状疱疹ウイルス(V2V)および単純ヘルペスウイルス(HSV)抗原の検索を行った。ハント症候群では2例でV2V抗原が検出された。また、HE染色ではリンパ球浸潤や軽度の線維化などが認められV2Vによるウイルス性神経炎であることが確認された。ベル麻痺ではHSV,V2V抗原ともに認められず、今後PCRなどより精度の高い手技にてウイルスの検索を行う必要がある。 2)ベル麻痺患者26人および正常人16人の未梢血よりリンパ球を分離し,これに抗原としてHSVを加えて ^3HーTymiclineの取り込みを測定した。Stimulation index(SI値)によりリンパ球の幼若化を定量化し細胞性免疫の状態を比較検討した。SI値はHSV抗体陽性群と陰性群との間に有意差が認められた。また、ベル麻痺患者のSI値は1〜7病日から8〜14病日にかけて上昇し,その後徐々に低下していた。この結果はkirstiによる再発性口唇ヘルペスにおける結果と近似しておりベル麻痺の発症にHSVが関与している可能性が示唆された。 3)HSV1型をBalb/cマウスの耳介または舌に接種し,顔面神経の病理組織学的研究および間接蛍光抗体法による免疫組織学的研究を行った。病理組織学的には、膝神経節および神経線維にリンパ球浸潤、中枢測神経線維の空胞変性、膝神経節細胞にfull型の核内封入体などが認められた。また膝神経節細胞,衛星細胞、シュワン細胞、神経軸索よりHSV抗原が確認され,HSVによる顔面神経炎であることが確認された。さらに,この実験系を基に一過性顔面神経麻痺を発症させることに成功した。この動物実験モデルは顔面神経麻痺の研究に多くの知見を与えるものと期待される。
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