相継いで優れた抗生物質が登場している今日でも、中耳炎の発症は減少せず、反復性中耳炎となって治療上難渋する症例は決して少なくない。この反復性の要因を含め中耳炎発症の成因をおもに免疫、アレルギ-の観点から研究をすすめた。また、中耳炎の予防として経口ワクチンの有効性を動物モデルで検討した。 1.中耳は解剖学的にも免疫学的にもユニ-クである。ヒト側頭骨に極めて類似性の高いニホンザルを用い中耳炎モデルを作成、その病態をコンピュ-タで3次元構築により検討した。鼓室の炎症が速やかに乳突蜂巣のすみずみを含め中耳全体に波及し、生じた炎症産物は鼓室狭部と耳管で排出が妨げられ、容易に貯留する。 2.チンチラ、モルモットによる実験的中耳炎から、中耳貯留液自体が起炎性で新たな貯留液をもたらすので、液の排除は治療の第一である。 3.滲出性中耳炎におけるI型アレルギ-の役割を検討した結果、それは成因とはならないが、耳管機能を一時的に障害し、貯留液排除を妨げた。I型アレルギ-は成因ではないが、遷延化因子であることが実証できた。 4.全身免疫および粘膜免疫の関与を検討した。循環抗体は免疫複合体を形成し、貯留液をもたらす。鼻咽腔液分泌型IgAは肺炎球菌、インフルエンザ菌の粘膜定着を阻止する。 5.経口免疫により抗原特異的T suppressorを誘導し、免疫反応に基づく中耳炎の発症を抑制した。 6.実験モデルで、経口ワクチンが感染性中耳炎の発症をある程度抑制することを確めた。
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