近年、眼底疾患における硝子体の役割が注目されて来ている。その代表が、増殖性糖尿病性網膜症や、黄斑円孔、黄斑前膜などの網膜硝子体界面病変である。これらの疾患では、硝子体が病態の形成、予後に大きく関係していることが推測されている。しかし実際にどのように、硝子体が関与するのかは、不明の点が多い、これは、硝子体が透明なため、その解剖学的構造が、よく理解されていないことに大きな原因がある。 我々は、剖検人眼の硝子体をフルオレセインで染色し、水浸状態で細隙灯顕微鏡で観察することによって、従来得られなかった硝子体の構造を、生理的な形状を保ったまま観察することに成功した。眼底後極部に面する硝子体には、硝子体皮質のすぐ前方にポケット状の液化腔が常に存在することが証明された(日本眼科雑誌1988)。この液化腔は、従来議論の多かったbursa premacularisに類似していた。我々は、新知見を加え、この硝子体の液化腔をposterior precortical vitreous pocket(PPVP)と定義した(Archives of Ophthalmology in press 1990)。 この硝子体ポケットが、前述した疾患にどのように関与するか以下の臨床研究を行った。増殖性糖尿病性網膜症では、眼底後極部を囲むように輪状の網膜硝子体癒着と増殖組織が起こることが多い。我々は、硝子体ポケットの概念を用いて病像の硝子体変化の観察を行い、硝子体のこの解剖学的特性が、不完全硝子体剥離と輪状病変の形成に関与することを報告した(臨床眼科1989)。また、硝子体出血の分布における硝子体ポケットの役割を報告した(日眼総会発表1989)。黄斑前膜は、膜の組成とその発症に不明の点が多かった。我々は、硝子体ポケットの概念と臨床研究により、膜形成の機序を明らかにした(臨床眼科学会発表1989)。 硝子体手術で得られた網膜前膜の病理組織学的検索を実施し、従来、細胞膜と考えられていた網膜前膜の基本要素は硝子体皮質であるとの知見を得た(発表予定)。
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