落屑緑内障の患者で水晶体偏位が生じていた患者に水晶体嚢内摘出術を行って、水晶体に付着していたチン小帯の形態変化を電子顕微鏡で調べた。その結果、チン小帯が変性して落屑物質が形成されることを明らかにした(Ophthalmologica 199:16ー23、1989)。チン小帯はマイクロフィブリルからなっているので、結膜のマイクロフィブリルが変性して落屑物質になるのと同じ機序で落屑物質が形成される。落屑症候群患者では水晶体の偏位がおこるのはマイクロフィブリルの変性がおこるのと密接に関係している。 マイクロフィブリルは全身の結合組織に広く存在する物質であるので、落屑物質は眼組織以外にも存在する可能性がある。そこで、落屑症候群患者の眼瞼皮膚を電子顕微鏡で調べた。その結果、結膜や虹彩で観察されたものと形態学的に類似した落屑物質を皮膚で観察した(日眼会誌投稿受理94:1990)。このことは落屑症候群が眼だけの病変ではなく、全身性の変性疾患であることを意味するものである。眼組織以外で落屑物質の存在を確認したのはこの研究が世界で最初である。 落屑緑内障の発生頻度について調べた。昭和61年と62年の2年間に九州大学眼科で緑内障と診断された症例は275名で、このうち落屑緑内障41名(約15%)であった。この年齢分布は49歳から85歳(平均69歳)であった。本症は明らかに高齢者の疾患であるといえる(日眼会誌93:458ー465、1989)。 老人ホ-ムの住民を対象として、落屑症候群の年齢別頻度、落屑症候群と眼圧との関係について調べた。その結果、落屑症候群は高齢者ほど高頻度に認められた。落屑症候群の方がそうでないものより眼圧が高かった。高頻者の年頻と眼圧の関係には有意の相関はなかった(Arch Ophthalmol投稿中)。
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