研究概要 |
我々は新生児ラットの大腿骨を低カルシウム環境下で培養すると骨頭部の肥大、アルカリ性ホスフアタ-ゼ活性、軟骨細胞の増殖、コンドロイチン硫酸合成能等の亢進、コラ-ゲン合成能の低下などが発生することを報告してきた。我々は低カルシウム環境下におけるこのような現象は細胞内情報伝達系の異常と密接に関係があると推測した。この推測を確かめるため、昭和63年度〜平成2年度の3年間において低カルシウム環境下培養骨系細胞を用いて intracellular free calcium([Ca^<2+>]),phosphatidyl inositolー1,4,5ーtriphosphate(IP_3),protein kinase C (PKC)の動向を調べ、以下の結果を得た。 [Ca^<2+>]i:1)Concanavalin Aによる刺激後の[Ca^<2+>]i濃度の上昇の程度は低Ca群で対照群に比べ著しく高いこと,2)細胞外液にCaCl_2を添加した場合も[Ca^<2+>]i濃度の上昇の程度は低Ca群で対照群に比べ著しく高いこと,3)ホスホリパ-ゼ C (PLC)で刺激した場合も[Ca^<2+>]i濃度の上昇の程度は低Ca群で対照群に比べ著しく高いことなどが示された。 IP_3:1)低Ca群の細胞におけるIP_3含有量は対照群の細胞におけるそれと比べ、極めて小量であること,2)PLC(2μg/ml)による細胞刺激後のIP_3量の増加の程度は低Ca群で対照群に比べてより高いことなどが示された。 PKC:1)低Ca群の細胞におけるPKC活性は対照群の細胞におけるそれと比べ、著しく低いこと,2)細胞の各分画のうち細胞質分画における活性の低下が細胞膜分画におけるそれと比べ、より著しいこと,3)低Ca環境を正常環境に復するとPKC活性も回復することなどが示された。これらの事実は骨系細胞の環境が低カルシウム状態に陥ると細胞内情報伝達系に異常が生じ、その結果、蛋白質の燐酸化反応が抑制され、細胞の応答が弱化することを示唆する。これが硬組織の代謝を抑制せしめる要因に一つと考えられる。
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