近年、顎機能異常症状を訴える患者が増加しているが、この発症には種々の下顎運動時に加わる顎関節への過度な負荷が大きく関与していると考えられている。この中で咀嚼運動は特に主要な運動でありながら、顆動部の動態については不明な点が多く存在している。そこで、本研究ではまず顆動点と切歯点の2点を標点とした下顎運動を記録でき、さらに左右側の咬筋、側頭筋、胸鎖乳突筋の計6筋のEMGをチェアーサイドで同時記録できる測定系を確立した。このため多チャンネル生体アンプ・バイオトップと記録器・オムニコーダを購入した。 正常者を対象とした測定を行った結果、咀嚼筋の活動時期は咀嚼過程の進行とともに変化し、咀嚼初期においては顆動が顎関節内の咬頭嵌合位の位置より前方位にある時ピークを迎えるのに対して、咀嚼終期では顆動が関節窩の最深部に達した時に活動のピークを迎えていた。さらに、食品を変えた実験を行ったところ、食品の性状により咀嚼過程が微妙に影響されていた。今回の測定結果を考え合わせてみると、咬筋の活動が増大しピークを迎える時期は顆頭が関節窩内にあり、また顆頭が関節結節上にあり咀嚼圧を受け易い状況にある時は咬筋の活動は低く、かつ顆頭の運動速度も大きいことが認められ、顆頭への咀嚼圧の影響は低下している状況にあった。このように、正常者の咀嚼運動時には咀嚼筋の活動と顆頭運動がうまくCoordinationし、顎関節には咀嚼圧が加わりにくい状況をつくりだしていることが明らかとなった。また、咀嚼時に頸筋の一つである胸鎖乳突筋が頭位の固定のために活動していることが確認された。 今年度は正常者を対象とした測定しか行えなかったが、次年度は多数の顎機能異常者を対象とした測定を行う予定であり、このためデータ処理を短時間に行えるデータ自動解析システムを現在開発中である。
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