唾液腺癌細胞の増殖・分化発現機構の解析のために数年間使用してきたHSG細胞系に加えて、最近ヒト腺様嚢胞癌細胞2株を分離確立することができた。この2株の細胞はHSG細胞とは異なりin vitroにおいて基底膜物質やグリコサミノグリカンなどの細胞外基質を多量に産生する特徴を有する。細胞外基質は癌細胞の浸潤性増殖や分化に強く関与することが知られているので本細胞系は上記の調節機構を解析するための有用な実験系になると思われる。HSG細胞系については実験の結果、本細胞はみなくとも2方向への分化を示すことが明らかとなった。1つは特にcAMPレベルの上昇によっておこる反応で筋上皮様細胞への分化を示し、他方はグルココルチコイドによって誘導される高分化導管上皮細胞である。上記2方向への分化はいずれもin vitroのみならずin vivoにおいてもみられ、分化にともなって細胞増殖能及び腫瘍原性が著しく低下することが明らかとなった。また分化誘導にともなってグリコサミノグリカンの産生能も著しく変化することがわかった。ヒト正常線維芽細胞の産生する唾液腺癌細胞分化誘導因子についての現在までに得られた知見は以下のごとくである。線維芽細胞による因子の産生は培養液中の血清濃度に依存する。本因子はEGFやTGFなどの既知の増殖因子とは物理化学的性状の異なる分子量的4〜5才の蛋白で癌細胞の増殖を特異的に抑制する活性を有している。
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