現在までの研究で、唾液腺由来癌細胞株(形態的に介在導管部上皮細胞)HSGが培養条件の変化やサイクリックAMPやグルココルチコイドなどの分化誘導剤の添加によって筋上皮様細胞や高分化導管上皮細胞など種々の細胞に分化し、分化誘導に伴って細胞増殖能が著明に低下することが明らかとなった。さらに分化誘導剤投与による分化誘導や腫瘍増殖抑制はヌ-ドマウスを用いたin vivoにおいてもみられた。またヒト正常線維芽細胞と唾液腺癌との混合培養実験にて線維芽細胞が唾液腺癌細胞の増殖を抑制し、分化を誘導することがわかった。その因子は分子量約4ー5万の蛋白でEGFやTGFなどの既知の成長因子とは物理化学的性状が異なるものである。以上の結果から唾液腺癌に対して分化誘導療法が可能であることが示唆された。しかし、これを現実的なものにするには細胞増殖や分化誘導機構の分子レベルでの解析、HSG細胞系以外の細胞株での分化誘導や増殖機構の解析、in vivoの実験系を用いた治療法の確立などさらに研究を進める必要がある。HSG細胞系以外の実験系を確立する目的でヒト腺様嚢胞癌から2株の細胞株を分離し、現在その性状、分化誘導過程を研究している。さらにHSG細胞の詳細な増殖や分化機構を解明するため最近、無血清培養系を確立し、HSG細胞の増殖や分化に少なくとも内因性のEGFとTGFーβが関与していることを示唆するデ-タが得られつつある。また無血清増殖株の1つが著明な骨誘導能を持つことが示唆された。
|