ANP受容体のサブタイプと遺伝子の検索を行い以下のような成果を得た。 (1)種々の組織中のANP受容体の免疫化学的性質やリガンド結合特性を調べたところ、大きく2つの型に分類できることがわかった。ひとつは、肺や腎臓等に多く存在し、ANPのアナログであるアトリオペプチンIに比較的強い親和性を示す受容体(I型)で、もう一つは副腎や血管壁に主として存在し、アトリオペプチンIに対し、非常に弱い結合能しか有しない(II型)。I型、II型ともにダイマー構造をとっていたが、抗体に対する反応性では、はっきりと区別できた。すなわち、I型に対する抗体は、II型受容体とはほとんど反応しなかった。ANP受容体には性質の異なるサブタイプが存在し、しかも臓器によってそれらの分布様式が異なるという事実は、ANPの作用機構を理解する上で重要である。 (2)ANP受容体のcDNAクローニング:ウシ肺cDNAライブラリー(λgtll)を抗体を用いてスクリーニングし、ポジティブクローンを3個得たが、塩基配列を決定した結果、いずれも擬似クローンで真の受容体cDNAではないことが判明したので、抗体に代わりに、オリゴDNAプローブを用いる方法に切り換えてスクリーニングをやり直し、現在2個のポジティブクローンを得ている。ANP受容体遺伝子の単離にも成功し、精力的に構造解析を進めているところである。 (3)ANP受容体を欠損した副腎腫瘍に関しても興味深い結果を得た。副腎皮質はアルドステロンの分泌を通して、体液量や血圧の調節を行っている。ANPは、このアルドステロンの分泌を抑える作用も有する。副腎皮質の腫瘍でアルドステロンを無制限に分泌し続けるために、高血圧をきたしているAldosteronomaが見付かったので、ANPに対する応答を調べたところ、ANP受容体を欠いているために、ANPには全く反応しないことが明らかになった。一種の受容体欠損症と考えられ、興味深い症例である。
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