平滑筋ミオシンは分子量20万の重鎖と分子量2.0万及び1.7万の軽鎖がそれぞれ2分子づつより成り立っている。形態的には、頭部(双頭)と尾部より成り立つ。分子量2.0万軽鎖はミオシン軽鎖キナ-ゼによりリン酸化されATPaseが増加すると考えられている。通常ミオシン軽鎖のリン酸化は尿素によりミオシンを変性させ軽鎖を重鎖より遊離して軽鎖のみを尿素を含むポリアクリルアミド電気泳動(UREAーPAGE)で分折する方式で解析されている。しかしこの方法には軽鎖を重鎖より切り離して泳動するため問題があり、ミオシン双頭がリン酸化されているものプラス非リン酸ミオシンの混合物をミオシン双頭のうち片方がリン酸化されているものの区別ができない。 我々はピロリン酸電気泳動(PPi‐PAGE)を開発した。これはミオシンを重鎖と軽鎖に分離しないで泳動するもので、非リン酸化のもの、片方の頭部の1‐リン酸のもの、両方の頭部の1‐リン酸化のもの、片方の頭部が1‐リン酸化で他方の頭部が2‐リン酸化のもの、両方の2‐リン酸化のものを区別することに成功した。 近年、in vitroに於けるミオシン軽鎖のリン酸化の効果が確立しこれがどの様な生理的意識をもつかにつき改めて批判的に検討しはじめられている。我々は放線菌の作る抗生物質誘導体NAO0344を平滑筋天然アクトミオシン(収縮に必要な蛋白とその制御蛋白を含むと考えられている)に与え超沈澱とミオシンのリン酸化を詳細に比較してみた。NA0344は前者と後者を共におさえるが、前者の方がより低い濃度で抑制した。PPiーPAGEで双頭がリン酸化されているミオシンの出現のNA0344による抑制を検出すると、ほぼ超沈澱の抑制移動と合致する。従って、ミオシンの双頭の1‐リン酸化が活性型に必要であると考えると、0344の作用はリン酸で一応説明が可能であった。 NA0344は抑制薬であるが、促進薬として最近知られてきたオカダ酸についても検討を加えた。オカダ酸は強力なフォスファタ-ゼ抑制作用がありこの作用を介してミオシンのリン酸化を促進し、そして超沈澱するものと解釈されている。我々はフォスファタ-ゼ活性を含まない平滑筋天然アクトミオシンを用いて同様な実験を行なったところ、オカダ酸の促進効果がみられた。従ってこの解釈は誤りであり、ミオシンに直接オカダ酸が作用すると解釈する方が正しいことが判明した。
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