本年度は、以下の重要な知見を得ることに成功した。 1)HPLCによるラット肝ミトコンドリアからのATP合成酵素の精製:ラットミトコンドリアから亜ミトコンドリア粒子を調整し、n-Heptyl-β-thioglucoside(HTG)で可溶化後、DEAE-5PWカラムを用いたHPLCにかけ、ついで、20%glycerol存在下で超遠心を行いATP合成酵素を精製した。最終精製標品の比活性は、14.5ユニットであった。この値は、Pedersenらが報告している11.3ユニットより高い。またインタクトネスの指標であるオリゴマイシン感受性も100%と高く、高い比活性とインタクトネスを保持したATP合成酵素標品が今回開発した精製法により得られたことが解る。精製標品のSDS/urea-PAGEから、F_1のαβγδεの5つのバンド以外に、8本の明瞭なバンドが確認され、F_0の7番目のバンドがチャージリンIIであることが確証された。 2)チャージリンII(A6L)のF_0におけるオリエンテーション:チャージリンIIの機能を明らかにする第一歩として、F_0におけるこのタンパク質のオリエンテーションを明らかにするため、チャージリンIIの3つの合成断片ペプチド、すなわちそのN端領域、チャージのクラスター領域、及びC端領域の3つの断片ペプチドを固相法により合成し、ヘモシアニンに共有結合後、ウサギに免疫し作製した抗体を用いて調べた。その結果、筆者らの仮説と一致して、チャージリンIIのN端領域がF_0のC-sideに露出しているが、チャージのクラスター部位とC端領域はF_0中にも埋もれていることが明らかになった。 現在、チャージリンIIのNMRによる三次構造解析、ATP合成酵素の結晶化そして各サブユニットのクローニングを行っており、エネルギー変換効率の高い高等動物のATP合成酵素の分子構造とエネルギー変換機作が明らかになるものと期待される。
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