エリスロポエチン(EPO)は赤血球の産生を調節する液性因子で貧血治療薬として著効があるが天然には患者尿からごく微量得られるに過ぎないので遺伝子組換えにより動物細胞を使って合成することが行われている。EPOは糖蛋白質であるからその蛋白部分は遺伝子を導入される側の細胞が何であっても同じものが合成されるが糖部分は細胞の種類によって異なる。従って合成されたEPOの生理活性も異なることが推定される。本研究は天然品と遺伝子組換えによって合成したEPOとの糖鎖構造を詳細に比較解析し、生理活性との関連をしらべるのが目的である。 〔結果の概要〕天然品及び遺伝子組換えによりBHK細胞とΨ2細胞に合成させたEPOを雪印乳業(株)生物科学研究所から入手した。 1.EPO糖蛋白質をプロテアーゼ消化後、グリコペプチダーゼ消化によって糖鎖を定量的に遊離した。 2.糖鎖の還元末端を蛍光ラベルし、高速液体クロマトグラフィー(2種類の分離の原理の異なるカラムを用いる)で分離し、上記3種類のEPO糖鎖のパタンの特徴を明らかにした。即ち患者尿から得られたEPO糖鎖はかなり個体差が見られたが遺伝子工学的に得られたEPOの糖鎖BHK、Ψ2それぞれ殆どばらつきがなかった。またBHK細胞から得られた糖鎖は患者尿からのEPO糖鎖をすべてもっており、それ以外にかなり分子サイズの大きい糖鎖をもっていた。これに反しΨ2細胞から得られた糖鎖は上記2種類のものと全く異なるパタンを示した。 3.患者尿、BHK細胞、Ψ2細胞の3種から由来したEPOの生物活性を比較すると、in vitroでは3種の活性は殆ど差がなかったが、in vivoの活性はΨ2細胞由来のものは他の2種にくらべて半分以下であった。これは糖鎖の影響であると考えて矛盾はない。
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