生体に元来微量しか存在しない有用な糖タンパク質(例えばγーインタ-フェロン、エリスロポエチン等)が、医薬として遺伝子組換えにより多量に合成されるようになった。しかしタンパク部分の遺伝情報は遺伝子を導入された細胞に直接伝えられるから正確なアミノ酸配列が再現されるが、糖部分に関する情報は与えられていないので遺伝子を導入された細胞が自己の糖鎖生合成系によって独自の糖鎖を作り上げるのである。したがって遺伝子工学的に作られた糖タンパク質にいったいどんな糖が結合しているのか、これはでき上がった糖タンパク質を分析してみるまではわからないのである。もちろん、天然品と同じ糖鎖を人為的にタンパク質に結合させるなどと言うことは現時点では不可能である。一方糖タンパク質の糖鎖は、そのタンパク質の寿命とかリセプタ-への結合性とか抗原性とか、また医薬としての生理活性等にも大きく関与しているので、遺伝子組換えによって合成された糖タンパク質を医薬として使用する際には、その糖鎖構造を詳細に調べておく必要がある。少なくともヒトに抗体を産生させるようなものであってはならない。 即ち医薬として使用する目的で遺伝子組換えによりある細胞に糖タンパク質を合成させた場合、その糖部分の天然品との異同、また同じでなくても臨床的使用に差支えないかどうかを決定するためには詳細な糖鎖構造の分析が不可欠である。われわれは、アスパラギン結合中性オリゴ糖を相互に分離し大まかな構造推定が簡単にできる二次元糖鎖マップ法を開発しその方法を駆使することにより、多様な糖鎖構造をもつ遺伝子組換え糖タンパク質エリスロポエチンの糖鎖構造を解明することができた。 この間に与えられた文部省科学研究費(一般B)により購入した備品の主なものはBioーLC糖類分析システム(DIONEX社)である。糖鎖分析に不可欠な装置であり、この装置の購入により研究は格段に進展した
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